その執着は、花をも酔わす 〜別れた御曹司に迫られて〜
『二軒目、連れて行ってくれませんか?』
その夜、バーを出た路地で思い切って言ってみた。
『ダメだよ』
彼は私の頭をポンと撫でて、困ったように笑う。
『どうして?』
『君は取引先の娘さんだ。あまり遅くまで連れまわせない。酒はゆっくり覚えたらいい』
『……そんな風に言われるなら、お店のお酒、碇ビールにしてもらわなければ良かった』
子ども扱いされたのに、さらに子どもっぽいと思われるようなことを言ってしまった。
『子ども扱いされたくないの。あなたには』
子どものわがままだってわかってる。
不意に彼が私の左頬に手を当てたから、わずかにビクッとしてしまう。
その反応に彼が小さく笑う。
『子どもみたいだな』

『……あなたから見たら子どもかもしれないけど、女として見てほしいです』

頬に当てられた手に自分の手を重ねて、眉を寄せた上目遣いで彼を見る。

『見てるよ、とっくに』

そのとき、彼がくれた大人のキスが私を大人にしてくれた気がしていたけど……そんなの、舞い上がった子どもの勘違いだった。

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