その執着は、花をも酔わす 〜別れた御曹司に迫られて〜
「雪中さん」
廊下で海棠さんに声をかけられる。
あの日からいろいろありすぎて、彼とゆっくり話す時間も無かった。
「碇の社長秘書になるんだって?」
「……はい」
「変なこと聞くけど、碇社長と前から知り合いなの?」
「え?」
「少し前に呼び出されたんだ、碇社長から直接。君の仕事ぶりを知りたいって」
海棠さん付きの営業事務だったのだから、彼に私のことを聞くのは当然だけど……交際を申し込まれた相手なだけに、なんとなく気まずさを覚える。
「昔のちょっとした知り合いなんです」
「ひょっとして、君の忘れられない人?」
私の表情が変わったのか、海棠さんが困ったように笑う。
「〝嫌な思い出〟なんて言ってたけど、そんな風に思っているようには見えないよ」
私は首を横に振る。
「嫌な思い出ですよ。向こうからしたら、思い出ですらないでしょうけど」
「そんな風には見えなかったけどな。なんか俺、嫉妬されてるのかなって感じだったし。振られたっていうのにね」
私たちのことを知らないからそう思うのよ。

どういうつもりかわからないけど、きっと古い玩具を思い出したような気まぐれでしかない。

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