その執着は、花をも酔わす 〜別れた御曹司に迫られて〜
「お姉さん、一人?」
背の高い方のカウンターで飲んでいた二人組の男性が声をかけてくる。
客同士の会話もこの店のコンセプトだ。
「良かったらこっちで一緒に飲まない? 嫌なことってひとに話した方がスッキリするでしょ」
この店ではナンパなんて滅多にないけど、彼らからはなんとなく下心めいたものを感じる。
私はにっこり笑って無言で首を横に振る。
「残念。じゃあせめて、お近づきの印にこれどうぞ」
そう言った一人が、高級メーカーの箱に入ったチョコレートを差し出す。
この店では、酒の当ての持ち込みは暗黙の了解で許されている。
「いただきます」
チョコを一粒いただく。口の中で溶けていくチョコをつまみに日本酒を飲むのは結構好き。

「ガラッ」と引き戸の開く音がする。
誰か新しいお客さんが来たんだな、なんて思いながらまたひと口飲む。

小町藤(こまちふじ)

私の隣に立った背の高いその男性客が、マスターに酒を注文する。
小町藤とはなかなか渋いチョイス。
「あーすみません、うち、現金だけなんです」
この店は一杯毎に五百円を払うシステムだ。
こんな町角の小さな一杯飲み屋でクレジットカードを出すなんて、私に言わせれば非常識。
目の端に映る高級そうなスーツからも、こういう店に慣れてないお客さんなんだってすぐにわかる。

「これ、この人の分」
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