その執着は、花をも酔わす 〜別れた御曹司に迫られて〜
◇
スーシが買収され、私が嫌々ながらも社長秘書になって一か月後。
「来週月曜の石蕗様と打ち合わせですが、先方の都合で十四時に変更になりました」
彼の言っていたように、私がもともとやってきた仕事と社長秘書の業務は根幹が似ていた。
「支社のベルドゥジュール様から、WEB会議の件で日時調整の希望が来ています。現地時間で——」
顧客名を覚えるなどの苦労を除けば、予想していたよりすんなりと馴染んでしまった。
そして彼も仕事中に昔の話を持ち出すなんてこともなく、毎日普通に仕事ができていて、はっきり言って拍子抜けしていた。
だからこの日は、唐突な質問に驚いた。
「君のご両親は元気にしているのか?」
碇ビール本社のエレベーターで背中を向けた彼に言われる。
「……元気ですよ。店もそのまま。変えて欲しいって言ってもずっと碇ビールと取引してます」
「そうか」
急に何の確認? まさか店に来るつもり?
「秘書としての君は優秀らしいな。柳が言っていた」
柳さんは、私の補佐をしてくれている男性の上司だ。
「スケジュールの調整も、電話やメールの対応も完璧だと褒めていたよ。君を指名して良かった」
「……ありがとうございます」
「だけど正直意外だった」
「え?」
「君は企画か開発の仕事に就いていると思っていた」
そう言われて、心臓が息苦しそうにドクンと脈打った。
スーシが買収され、私が嫌々ながらも社長秘書になって一か月後。
「来週月曜の石蕗様と打ち合わせですが、先方の都合で十四時に変更になりました」
彼の言っていたように、私がもともとやってきた仕事と社長秘書の業務は根幹が似ていた。
「支社のベルドゥジュール様から、WEB会議の件で日時調整の希望が来ています。現地時間で——」
顧客名を覚えるなどの苦労を除けば、予想していたよりすんなりと馴染んでしまった。
そして彼も仕事中に昔の話を持ち出すなんてこともなく、毎日普通に仕事ができていて、はっきり言って拍子抜けしていた。
だからこの日は、唐突な質問に驚いた。
「君のご両親は元気にしているのか?」
碇ビール本社のエレベーターで背中を向けた彼に言われる。
「……元気ですよ。店もそのまま。変えて欲しいって言ってもずっと碇ビールと取引してます」
「そうか」
急に何の確認? まさか店に来るつもり?
「秘書としての君は優秀らしいな。柳が言っていた」
柳さんは、私の補佐をしてくれている男性の上司だ。
「スケジュールの調整も、電話やメールの対応も完璧だと褒めていたよ。君を指名して良かった」
「……ありがとうございます」
「だけど正直意外だった」
「え?」
「君は企画か開発の仕事に就いていると思っていた」
そう言われて、心臓が息苦しそうにドクンと脈打った。