その執着は、花をも酔わす 〜別れた御曹司に迫られて〜
◇
「これ、新商品ですか?」
エレベーターの一件から数日が経ったある日、出社すると秘書室の柳さんのデスクにノンアルコールビールの瓶が置かれていた。
ラベルがくすみ系のパステルカラーでかわいい。
「ああ。来週からテスト販売を開始するから、その前に社内でも試飲して欲しいって言われて」
柳さんはメガネをかけた穏やかな顔立ちの三十代。
「ノンアルだから仕事中でも飲めますね」
とはいえ、実際には終業間際まで飲んではいけないことになっている。
「雪中さんはアルコールが入っていた方が嬉しいんでしょ?」
「はい、まあ」
「えへへ」と笑う。
「でも最近はノンアルとか、弱めのお酒の市場規模が拡大してますよね」
「ガチャッ」とドアが開く。
「柳、悪いんだが——」
「だから私だったら弱めのビールの企画で——」
ついはしゃいで喋っているところに、会いたくない人が現れてテンションが下がる。
お喋りをピタッとやめてしまう。
あの日以来、彼とはますます気まずくなって、業務以外の話は全くしていない。
「柳、この件の断りの連絡を入れておいてくれ」
ものすごく不機嫌そうな声。
とばっちりを受けた柳さんに申し訳ない。
そして、この後彼と取引先へ同行しなければいけない自分自身も可哀想。
「これ、新商品ですか?」
エレベーターの一件から数日が経ったある日、出社すると秘書室の柳さんのデスクにノンアルコールビールの瓶が置かれていた。
ラベルがくすみ系のパステルカラーでかわいい。
「ああ。来週からテスト販売を開始するから、その前に社内でも試飲して欲しいって言われて」
柳さんはメガネをかけた穏やかな顔立ちの三十代。
「ノンアルだから仕事中でも飲めますね」
とはいえ、実際には終業間際まで飲んではいけないことになっている。
「雪中さんはアルコールが入っていた方が嬉しいんでしょ?」
「はい、まあ」
「えへへ」と笑う。
「でも最近はノンアルとか、弱めのお酒の市場規模が拡大してますよね」
「ガチャッ」とドアが開く。
「柳、悪いんだが——」
「だから私だったら弱めのビールの企画で——」
ついはしゃいで喋っているところに、会いたくない人が現れてテンションが下がる。
お喋りをピタッとやめてしまう。
あの日以来、彼とはますます気まずくなって、業務以外の話は全くしていない。
「柳、この件の断りの連絡を入れておいてくれ」
ものすごく不機嫌そうな声。
とばっちりを受けた柳さんに申し訳ない。
そして、この後彼と取引先へ同行しなければいけない自分自身も可哀想。