その執着は、花をも酔わす 〜別れた御曹司に迫られて〜
取引先への車中。
社長専用の高級車の後部座席に隣り合って座っているけど、彼は不機嫌そうに手元のタブレットを見ている。

だけど私は何も悪いことなんてしていない。
窓の外を見ながら、思わず小さなため息を漏らす。

「……柳には笑うんだな」

不機嫌そうなままそんなことをつぶやくので、思わず顔を彼の方に向けてしまった。
「当たり前じゃないですか? 柳さんは親切ですから」
「上司が親切なのは業務上当然だろ?」
「あなたも一応上司ですけど? 親切だったことなんてありました?」
この性格は、つい火に油を注いでしまう。
「まさか部下に嫉妬してるんですか?」
彼が「はあっ」と大きなため息をつく。
自惚れたような発言に、さすがに呆れられてしまったのだと思った。

「するに決まっているだろ?」

そう言って、彼が私を見つめる。

「再会してから、俺は一度も君の笑顔を見ていないんだから」

切なげに眉を寄せる彼の表情に、胸がキュ……と小さく鳴いてしまう。

だけど七年前のことを思い出すと、どうしても彼に笑いかけたりはできない。
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