その執着は、花をも酔わす 〜別れた御曹司に迫られて〜

また、目の前が暗くなって、気づいたら唇を奪われていた。

運転席と座席は壁で隔てられているから、誰にも見られることはない。
だけど仕事中で、私は彼を憎んでいる——だけど

「ん……っ」

優しく頬を包み、まるで私の存在をたしかめるように何度も甘い熱を絡めてくる彼を、今日は拒絶する気になれない。

彼のジャケットの袖を掴む。

「——んっ……」

もっと溶け合いたい。
そんな気持ちになりながら、自分に戸惑って目に涙を滲ませる。

「……かわいいな、君は」

そう言って抱き寄せられ、七年ぶりに彼の鼓動の音を聞く。
〝温かくて落ち着く音〟そんな風に思ってしまった。

いい加減、彼ときちんと向き合わなければいけないのかもしれない。
何か誤解があるのかもしれない。

怖さと、もう一度信じてみたい気持ちが同居している。



それから数日後には商品開発部との打ち合わせの場が改めて設けられ、今後のスケジュールや、私が企画にどう関わるのかを話し合った。
一度碇ビールの工場へも足を運ぶことになった。
ビールの生産工程についても説明してもらえるらしい。
アルコール業界、それも碇ビールにこんな風に関わることになるとは七年前にはまるで想像していなかった。

そもそもこの業界にいることすら叶わなかったのだから。

気持ちがどうしてもふわふわと浮ついてしまう。

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