その執着は、花をも酔わす 〜別れた御曹司に迫られて〜
コンペの結果が発表されて十日ほど経った夕方。
私が打ち合わせを終えて社長室に入ろうとドアの前に立った時だった。

中から柳さんの声が聞こえる。
「——雪中さんの企画はたしかに時代のニーズに合っていて、社長が推すのもわかりました」

心臓がドクンと脈打つ。
聞き間違えでなければ、今、〝私の企画を社長が推した〟と言った。

「いや、彼女の企画は誰が見ても中身がいいから俺が推さなくても——」

ノックもせずにドアを開けて、中に入る。
そこには柳さんと彼がいた。
「雪中さん、お疲れ様」
柳さんが笑いかける。

「……今の、どういうことですか?」
「え?」

「私の企画は、あなたが推したから通ったってことですか? 社長のあなたの権限で、実力なんかじゃなくて」
気持ちが一気に温度を失う。
「雪中さん? 何を言ってるんだ?」
柳さんが不思議そうな顔をする。
「贔屓なんて、最低です……」
涙が込み上げてくる。
「実力で評価して欲しかったのに」

『企画、通るといいな』

やっぱりただの罪滅ぼしなの?

贔屓されてはしゃいで、バカみたい。

「雪中さん、君は何か勘違いをしてるよ」
私の様子に、柳さんの声色が戸惑っているのがわかる。
「え……?」
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