その執着は、花をも酔わす 〜別れた御曹司に迫られて〜
「ご無沙汰しております」
私は彼女の目を見据えて挨拶をした。

「どうしてあなたがここにいるの?」
一瞬で、瞳が怒りを孕んだのがわかる。
「覚えていていただけたとは、思いませんでした」
私はわざとニッコリと笑う。
「彼女に改めてプロポーズしたんだ」
彼が私の肩を抱くと、私たちを取り囲んでいた人ごみがどよっと騒めく。
こうして先手を打ってしまえば、パーティー会場では揉め事を起こし難い。
「そう」
彼女は冷たい声でそれだけ言って、私たちの前から去った。

「大丈夫か? 花音」
「う、うん……心臓がドキドキしてるけど」

再会は思ったよりあっさりしていた。
七年経って、彼女も何か変わったのかもしれない。

それから私は、彼の知り合いに挨拶をして回った。

ふと、傍から英語での会話が耳に入る。
視線をやると、薄紫の着物が目に入る。
彼女は他のゲストと話しながら、私の方を見てクスクスと笑っていた。

「……vulgar……」

耳に入ってきたワードにため息をつく。

また小さく深呼吸して彼の腕から離れ、まっすぐ彼女のもとへ向かう。
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