その執着は、花をも酔わす 〜別れた御曹司に迫られて〜
「私があなたより劣っているとでも言うつもり? マナー? 所作? 語学? そんなもの、私にとっては身についていて当然です」
それはあなたが〝良い家柄〟で生きてきたから。

「では、立ち飲み屋のマナーはご存知ですか? 居酒屋でどんなお酒が飲まれているかご存知ですか?」
「そんなもの卑しい人間の——」
「碇の会社を支えているのは、そういう〝普通の〟人たちです。あなたのくだらない優越感じゃない」

彼女をまっすぐ見据える。

「あなたは……私がこれまでに出会った誰よりも品性が下劣な人間です」

こんな人の言葉に傷ついて泣いていたなんてバカみたい。
そんなこともわからないくらい、あの時の私は子どもだった。

「パンッ」と音が鳴って、一瞬意識が飛ぶ。

「花音!」

成貴さんの声がする。周りのざわっという声も聞こえた。

そこでようやく、彼女に頬を叩かれたんだと気づく。
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