敵国に嫁いだ元王女は強面伯爵に愛され大地を耕す。
「さぁヘムロック様。今日こそ求婚を受け入れてくださいまし」
ドラセナが屋敷に現れ、ヘムロックは口を歪めた。
ヘムロックを愛するあまりに侍女含め、ヘムロックに近寄る女性を片っ端から排除してきた女だ。
嫌いにならないわけがない。
面倒事を避けるため、いま執務室にいる使用人も全員男性だ。
ドラセナは両脇に護衛の剣士を従えていて、迂闊なことを言えない。
使用人たちも露骨に嫌な顔をしているのに、当のドラセナは気づかない。
何度も求婚を断っているのに、照れていると曲解する脳みそをお持ちだ。
「お断りします」
「なぜですの。ネモフィラはイングレスに嫁いだのです。それに、スカビオサのほうがお金があるし、わたくしは華やかで美しい。なによりも、わたくしは世界で一番貴方を愛しているのです。何が不満なんです?」
ヘムロックは、お前の全部が嫌いだと言おうとして、ギリギリ飲み込んだ。
「そもそもネモフィラはただの従妹で、恋仲だったことなんてないんですが」
「まぁ。強がらなくていいんですのよ。すべてわかっていますわ。もう婚儀のための衣装を仕立てておりますの。ヘムロック様もご準備くださいませ。国中の貴族を招待しませんと」
会話が成立しなくて、ヘムロックは血が滲むくらい拳を強く固めた。
スカビオサは大陸で一番規模の大きな国。
ドラセナの機嫌を損ねれば、領地は世界地図から消える。シーマニア王国のように。
かといって機嫌取りのために結婚してしまえば、ドラセナは今後も自分のわがままが何でも通ると思いさらにつけあがる。
断りたいのに、断れば死ぬ。
最後に残った血縁のヘムロックまで殺されてしまったら、ネモフィラの心痛は計り知れない。
執事と目配せをして、ヘムロックは慎重に答える。
「今日は一旦お引き取り願えますか。準備がありますので」
「準備! ええ、そうね。そうですわよね。楽しみにしていますわ!」
ドラセナは軽やかな足取りで屋敷を出ていく。
嵐が過ぎ去り、使用人たちは盛大なため息を吐く。
「皆、すまない。ぼくがあの人に気に入られているばかりに……」
「謝らないでください。ご主人様は何も悪くないです。私どもは知っています。逆らえばここにいた全員の命がなかったでしょう」
悩み抜いた末、ヘムロックはスカビオサ国内で、とくに口がかたい貴族に連絡を取った。
ドラセナが屋敷に現れ、ヘムロックは口を歪めた。
ヘムロックを愛するあまりに侍女含め、ヘムロックに近寄る女性を片っ端から排除してきた女だ。
嫌いにならないわけがない。
面倒事を避けるため、いま執務室にいる使用人も全員男性だ。
ドラセナは両脇に護衛の剣士を従えていて、迂闊なことを言えない。
使用人たちも露骨に嫌な顔をしているのに、当のドラセナは気づかない。
何度も求婚を断っているのに、照れていると曲解する脳みそをお持ちだ。
「お断りします」
「なぜですの。ネモフィラはイングレスに嫁いだのです。それに、スカビオサのほうがお金があるし、わたくしは華やかで美しい。なによりも、わたくしは世界で一番貴方を愛しているのです。何が不満なんです?」
ヘムロックは、お前の全部が嫌いだと言おうとして、ギリギリ飲み込んだ。
「そもそもネモフィラはただの従妹で、恋仲だったことなんてないんですが」
「まぁ。強がらなくていいんですのよ。すべてわかっていますわ。もう婚儀のための衣装を仕立てておりますの。ヘムロック様もご準備くださいませ。国中の貴族を招待しませんと」
会話が成立しなくて、ヘムロックは血が滲むくらい拳を強く固めた。
スカビオサは大陸で一番規模の大きな国。
ドラセナの機嫌を損ねれば、領地は世界地図から消える。シーマニア王国のように。
かといって機嫌取りのために結婚してしまえば、ドラセナは今後も自分のわがままが何でも通ると思いさらにつけあがる。
断りたいのに、断れば死ぬ。
最後に残った血縁のヘムロックまで殺されてしまったら、ネモフィラの心痛は計り知れない。
執事と目配せをして、ヘムロックは慎重に答える。
「今日は一旦お引き取り願えますか。準備がありますので」
「準備! ええ、そうね。そうですわよね。楽しみにしていますわ!」
ドラセナは軽やかな足取りで屋敷を出ていく。
嵐が過ぎ去り、使用人たちは盛大なため息を吐く。
「皆、すまない。ぼくがあの人に気に入られているばかりに……」
「謝らないでください。ご主人様は何も悪くないです。私どもは知っています。逆らえばここにいた全員の命がなかったでしょう」
悩み抜いた末、ヘムロックはスカビオサ国内で、とくに口がかたい貴族に連絡を取った。