雨降る夜に君を想う
蓮くんの右手と私の左手
土曜日、私達は悠人くんの運転でクリスマスマーケットに行った。
17時に、悠人くんがうちのマンションに迎えに来てくれた。悠人くんの家から1番家の距離が近い絵梨奈はすでに車に乗っていた。絵梨奈が助手席に乗っていたので、わたしは必然的に後部座席に乗ることになる。これじゃあ私、蓮くんの隣になっちゃうじゃん。
「絵梨奈後部座席に乗らないの?」
そう聞くと、
「俺が絵梨奈さんに道案内頼んだ!蓮、道案内苦手だからさ〜。あいつ直ぐ間違える。」
悠人君はそう言った。
「蓮くんあんなに仕事できるのに、そんな一面もあるんだ。可愛いね。」
そういうと悠人くんは、
「絵梨奈さん、あいつのことだけは絶対に好きになっちゃだめだよ。」
そう言った。何でだろう?理由が気になったけど、悠人君に電話がかかってきたので、聞けずに話は終わってしまった。
その後は蓮くんの家に向かう。無機質でシンプルでおしゃれなマンションだな、蓮くんらしいな。そう思っていたら、玄関からブラックのロングコートを着た蓮くんが出てきた。今日もかっこいいなぁ、そう思っていたら、ふと絵梨奈の横顔が目に入った。窓越しに蓮くんを見つめるその目は、確実に恋をしている目だった。絵梨奈が初めて好きになった人を、私も好きになってしまった。私は人妻なのに。やっぱり絵梨奈にこのことは言えないな、そう考えていたら、
「俺後部座席?」
と、少し驚いた様子で蓮くんが乗り込んできた。
数日ぶりに会う蓮くん。うっすらと香るタバコの香りに、石鹸のような香りが混じった心地良い香りに、私は蓮くんとキスをしたあの夜の事を思い出してドキドキしてしまう。
でもきっと意識しちゃってるのは私だけ。あれから蓮くんとは仕事の用事がある時しか連絡を取っていない。きっと蓮くんは私を好きなわけではなく、軽い気持ちだったんだろう。もう私の事は仕事で出会った仲の良い友達としか見ていないんだろうな。
悲しい気持ちになりながらも、少しだけホッとした自分もいた。
「わぁぁぁすごい人〜。」
クリスマス前の土曜日、クリスマスマーケットはすごい人だった。うちの会社の取引先がこのクリスマスマーケットの主催者のため、整理券は事前に貰えていたけど、こんなに人がいるとは思わなかった。
私は小さいから、人混みに飲まれそうになるけどなんとか3人について行く。
あれ!みんなどこ行った?!通行人に遮られ、3人の姿が見えなくなってしまった。すると誰かに左手を引っ張られ、はっとして上を向く。蓮くんだった。こっち、と言って私の手を引いて人ごみをかき分けて行く。
蓮くんの温かい手に触れて、私の左手の薬指にはめた指輪が、いつもよりも一層冷たく感じる。なんだかイケナイ事をしている気持ちになった。
でも蓮くんと手を繋いでいるっていう事実に、私は小さくて良かった、そう思った。小さいことがコンプレックスな私が、生まれて初めて自分の身長を好きになれた瞬間だった。
4人で合流してご飯を食べる。ホットワインが飲みたかったけれど、運転してくれた悠人くんに悪いからホットチョコレートにした。私の口に付いたクリームを、
「あざといな〜」
そう言って、蓮くんが笑いながら拭いてくれた。
「ごめん、ありがとう。」
私は咄嗟に謝る。
絵梨奈と悠人くんが少し小さな声で話す声が聞こえた。
「なんかあの2人いい感じじゃない?え、何にもないよね?」
そうニヤニヤしながら言う悠人くんに絵梨奈は、
「怜は結婚してて他の人とそういう関係になるような人じゃないから。」
怜は私をかばってくれたんだろうけど、私にはその言葉がぐさりと刺さった。そうだよね、そんな最低な人間に私はなりたくない。そう思って、そこからは蓮くんと一定の距離を取った。
「今日旦那さんは?」
悠人くんが私に聞いてくる。
「今日は静岡で講演会で、その後そのまま関係者の人たちと飲み会だから、帰ってこないよ。なんで?」
「旦那さん忙しいな〜。いや、もし旦那さんいないならこの後夜景でも見に行きたいなと思って。」
その言葉に絵梨奈がはしゃぐ。
「いいねー!夜景!怜も祐介さんいないならOKだよね?」
私に聞いてきた。
「うん!大丈夫だよ。私夜景見に行ったことないから行って見たい!」
そういうと、
「夜景見に行ったことないの?」
そう言って蓮くんは驚いていた。
蓮くんは誰かと行ったことがあるのかな、誰と行ったんだろう。今は彼女いないって言ってたから、元カノかな。
気づいたらまた蓮くんのことを考えていた。
「夜景の場所まで今度は私が道案内するよ」
そう言って誰かが助手席に乗り込む前に私が乗り込んだ。少しでも蓮くんと距離を取るために。
蓮くんは、俺がするよって言ってくれたけど、悠人君に断られていた。絵梨奈は、みんなに気づかれないように口パクで、"ありがと"と私に言ってきた。絵梨奈は私が気を利かせたと思ったんだろう。自分のためにやっただけなのに、、、絵梨奈にまた申し訳ない気持ちになった。
東京の街が一望できるその夜景は本当に綺麗だった。ビルの灯りがキラキラと宝石のように光っていた。綺麗に見える光だけど、これも全部誰かが必死に働いてる証なんだよなぁ。そんな複雑な気持ちで夜景を眺めていた。
4人で写真を撮ったり、鬼ごっこをしたり、学生時代に戻ったみたいで本当に楽しかった。
帰りは蓮くんが道案内するって言ったけど悠人くんは絵梨奈に頼んだ。私がやろうか?って聞いたけど、絵梨奈がいいみたいだった。悠人くんは絵梨奈のことが好きなのかな。
必然的に私と蓮くんは後部座席に座る。
帰りの車の中は、みんな疲れたのか、いつもより静かだった。
♪〜好きで好きでどうしようもない。でもこの想いを君に伝える事はできない。私達が共に歩む未来は絶対にやってこない〜。わかっているのにそれでも私はこの気持ちを止められない〜♪
まるで私の事を歌っているのかな、と思うような歌詞の歌が悠人くんのプレイリストから流れる。
その時、蓮くんの右手と私の左手がふと触れ合った。お互いに真ん中に置いてあった手は、もしかしたらこうやって触れ合う事を密かに期待していたのかもしれない。
そのまま蓮くんは私の手をぎゅっと握る。ダメだってわかっているのに、私はその手を振りほどくことが出来ない。私はぎゅっと蓮くんの手を握り返す。するとまるで私の気持ちに応えるかのように、蓮くんがまた私の手を握り返した。
真っ暗な車内で、この世界が誰も知らない事を蓮くんと共有できて嬉しかった。
ドキドキする。どうしようもなく蓮くんが好き。絶対に誰にも伝えることの出来ないこの想いは、私がどんなに抵抗しても、どんどん大きくなっていった。その時ふと祐介のことが思い浮かんだ、だめだ、私こんなことしてちゃダメだ!そうやって強引に蓮くんの手を振り解いた。
しばらくして蓮くんが悠人くんに話しかけた。
「明日悠人、斎藤さんの結婚式だろ?俺ん家お前ん家から遠いから、絵梨奈さんと怜さんだけ送ってやって。俺はどっかで降ろしてくれたらタクシー拾うよ。」
悠人くんと蓮くんは、同じ大学の先輩後輩。きっと斎藤さんというのは、2人と同じ大学の、悠人くんの友達だろう。
「そうなんだよ、まじ?じゃあどっかの駅で降ろすわ。」
「なら私の家も遠いから、私も電車かタクシーで帰るよ!」
悠人くんに悪いと思って咄嗟にそう言う。蓮くんと2人になってしまうけど、乗る電車違うし大丈夫だよね。
「多分もう終電近いから、先に蓮と怜さん駅に送るよ。」
そう言って私たちを近くの駅に送ってくれた。
「みんなありがと!今度は俺が運転するからまたどっか行こう!」
蓮くんがそう言うと、
「今度4人で海行きたくなーい?私達冬の海大好きなんだよね〜、ね、怜!」
そう言われたので咄嗟にそうだねと答える。
「おっしゃ、じゃあ次は海だな!今から楽しみすぎるな〜。」
そう悠人くんは言うけれど、私はこれ以上蓮くんとの思い出を増やしたら、一生蓮くんへの気持ちが消えない気がして、どうにかして断ろう、そう考えていた。
17時に、悠人くんがうちのマンションに迎えに来てくれた。悠人くんの家から1番家の距離が近い絵梨奈はすでに車に乗っていた。絵梨奈が助手席に乗っていたので、わたしは必然的に後部座席に乗ることになる。これじゃあ私、蓮くんの隣になっちゃうじゃん。
「絵梨奈後部座席に乗らないの?」
そう聞くと、
「俺が絵梨奈さんに道案内頼んだ!蓮、道案内苦手だからさ〜。あいつ直ぐ間違える。」
悠人君はそう言った。
「蓮くんあんなに仕事できるのに、そんな一面もあるんだ。可愛いね。」
そういうと悠人くんは、
「絵梨奈さん、あいつのことだけは絶対に好きになっちゃだめだよ。」
そう言った。何でだろう?理由が気になったけど、悠人君に電話がかかってきたので、聞けずに話は終わってしまった。
その後は蓮くんの家に向かう。無機質でシンプルでおしゃれなマンションだな、蓮くんらしいな。そう思っていたら、玄関からブラックのロングコートを着た蓮くんが出てきた。今日もかっこいいなぁ、そう思っていたら、ふと絵梨奈の横顔が目に入った。窓越しに蓮くんを見つめるその目は、確実に恋をしている目だった。絵梨奈が初めて好きになった人を、私も好きになってしまった。私は人妻なのに。やっぱり絵梨奈にこのことは言えないな、そう考えていたら、
「俺後部座席?」
と、少し驚いた様子で蓮くんが乗り込んできた。
数日ぶりに会う蓮くん。うっすらと香るタバコの香りに、石鹸のような香りが混じった心地良い香りに、私は蓮くんとキスをしたあの夜の事を思い出してドキドキしてしまう。
でもきっと意識しちゃってるのは私だけ。あれから蓮くんとは仕事の用事がある時しか連絡を取っていない。きっと蓮くんは私を好きなわけではなく、軽い気持ちだったんだろう。もう私の事は仕事で出会った仲の良い友達としか見ていないんだろうな。
悲しい気持ちになりながらも、少しだけホッとした自分もいた。
「わぁぁぁすごい人〜。」
クリスマス前の土曜日、クリスマスマーケットはすごい人だった。うちの会社の取引先がこのクリスマスマーケットの主催者のため、整理券は事前に貰えていたけど、こんなに人がいるとは思わなかった。
私は小さいから、人混みに飲まれそうになるけどなんとか3人について行く。
あれ!みんなどこ行った?!通行人に遮られ、3人の姿が見えなくなってしまった。すると誰かに左手を引っ張られ、はっとして上を向く。蓮くんだった。こっち、と言って私の手を引いて人ごみをかき分けて行く。
蓮くんの温かい手に触れて、私の左手の薬指にはめた指輪が、いつもよりも一層冷たく感じる。なんだかイケナイ事をしている気持ちになった。
でも蓮くんと手を繋いでいるっていう事実に、私は小さくて良かった、そう思った。小さいことがコンプレックスな私が、生まれて初めて自分の身長を好きになれた瞬間だった。
4人で合流してご飯を食べる。ホットワインが飲みたかったけれど、運転してくれた悠人くんに悪いからホットチョコレートにした。私の口に付いたクリームを、
「あざといな〜」
そう言って、蓮くんが笑いながら拭いてくれた。
「ごめん、ありがとう。」
私は咄嗟に謝る。
絵梨奈と悠人くんが少し小さな声で話す声が聞こえた。
「なんかあの2人いい感じじゃない?え、何にもないよね?」
そうニヤニヤしながら言う悠人くんに絵梨奈は、
「怜は結婚してて他の人とそういう関係になるような人じゃないから。」
怜は私をかばってくれたんだろうけど、私にはその言葉がぐさりと刺さった。そうだよね、そんな最低な人間に私はなりたくない。そう思って、そこからは蓮くんと一定の距離を取った。
「今日旦那さんは?」
悠人くんが私に聞いてくる。
「今日は静岡で講演会で、その後そのまま関係者の人たちと飲み会だから、帰ってこないよ。なんで?」
「旦那さん忙しいな〜。いや、もし旦那さんいないならこの後夜景でも見に行きたいなと思って。」
その言葉に絵梨奈がはしゃぐ。
「いいねー!夜景!怜も祐介さんいないならOKだよね?」
私に聞いてきた。
「うん!大丈夫だよ。私夜景見に行ったことないから行って見たい!」
そういうと、
「夜景見に行ったことないの?」
そう言って蓮くんは驚いていた。
蓮くんは誰かと行ったことがあるのかな、誰と行ったんだろう。今は彼女いないって言ってたから、元カノかな。
気づいたらまた蓮くんのことを考えていた。
「夜景の場所まで今度は私が道案内するよ」
そう言って誰かが助手席に乗り込む前に私が乗り込んだ。少しでも蓮くんと距離を取るために。
蓮くんは、俺がするよって言ってくれたけど、悠人君に断られていた。絵梨奈は、みんなに気づかれないように口パクで、"ありがと"と私に言ってきた。絵梨奈は私が気を利かせたと思ったんだろう。自分のためにやっただけなのに、、、絵梨奈にまた申し訳ない気持ちになった。
東京の街が一望できるその夜景は本当に綺麗だった。ビルの灯りがキラキラと宝石のように光っていた。綺麗に見える光だけど、これも全部誰かが必死に働いてる証なんだよなぁ。そんな複雑な気持ちで夜景を眺めていた。
4人で写真を撮ったり、鬼ごっこをしたり、学生時代に戻ったみたいで本当に楽しかった。
帰りは蓮くんが道案内するって言ったけど悠人くんは絵梨奈に頼んだ。私がやろうか?って聞いたけど、絵梨奈がいいみたいだった。悠人くんは絵梨奈のことが好きなのかな。
必然的に私と蓮くんは後部座席に座る。
帰りの車の中は、みんな疲れたのか、いつもより静かだった。
♪〜好きで好きでどうしようもない。でもこの想いを君に伝える事はできない。私達が共に歩む未来は絶対にやってこない〜。わかっているのにそれでも私はこの気持ちを止められない〜♪
まるで私の事を歌っているのかな、と思うような歌詞の歌が悠人くんのプレイリストから流れる。
その時、蓮くんの右手と私の左手がふと触れ合った。お互いに真ん中に置いてあった手は、もしかしたらこうやって触れ合う事を密かに期待していたのかもしれない。
そのまま蓮くんは私の手をぎゅっと握る。ダメだってわかっているのに、私はその手を振りほどくことが出来ない。私はぎゅっと蓮くんの手を握り返す。するとまるで私の気持ちに応えるかのように、蓮くんがまた私の手を握り返した。
真っ暗な車内で、この世界が誰も知らない事を蓮くんと共有できて嬉しかった。
ドキドキする。どうしようもなく蓮くんが好き。絶対に誰にも伝えることの出来ないこの想いは、私がどんなに抵抗しても、どんどん大きくなっていった。その時ふと祐介のことが思い浮かんだ、だめだ、私こんなことしてちゃダメだ!そうやって強引に蓮くんの手を振り解いた。
しばらくして蓮くんが悠人くんに話しかけた。
「明日悠人、斎藤さんの結婚式だろ?俺ん家お前ん家から遠いから、絵梨奈さんと怜さんだけ送ってやって。俺はどっかで降ろしてくれたらタクシー拾うよ。」
悠人くんと蓮くんは、同じ大学の先輩後輩。きっと斎藤さんというのは、2人と同じ大学の、悠人くんの友達だろう。
「そうなんだよ、まじ?じゃあどっかの駅で降ろすわ。」
「なら私の家も遠いから、私も電車かタクシーで帰るよ!」
悠人くんに悪いと思って咄嗟にそう言う。蓮くんと2人になってしまうけど、乗る電車違うし大丈夫だよね。
「多分もう終電近いから、先に蓮と怜さん駅に送るよ。」
そう言って私たちを近くの駅に送ってくれた。
「みんなありがと!今度は俺が運転するからまたどっか行こう!」
蓮くんがそう言うと、
「今度4人で海行きたくなーい?私達冬の海大好きなんだよね〜、ね、怜!」
そう言われたので咄嗟にそうだねと答える。
「おっしゃ、じゃあ次は海だな!今から楽しみすぎるな〜。」
そう悠人くんは言うけれど、私はこれ以上蓮くんとの思い出を増やしたら、一生蓮くんへの気持ちが消えない気がして、どうにかして断ろう、そう考えていた。