都合のいいオトコ
変化のとき
その日は突然訪れた。
「ハライシ様」
会計のとき、ボーイが預かってたキャッシュカードを返しながら、ハライシさんと小声で話し合ってた。
「……何やったん?」
「いや……。なんか、カードが使えんかったらしいから、今日は現金で払うことにしたん」
初めは、カードの磁気か何かがダメになったんやと思ってた。
でも、それからもハライシさんは現金で払い続けてて、カードの再発行についてたずねると、ハライシさんは言葉を濁して曖昧に振る舞う。
“もしかしたら……”と考え始めたとき、店長が私に声をかけてきた。
「……ハライシさん、もう潮時ちゃうか」
「え?」
「カードとめられてるし、現金やと底つくのも早いと思うから、熱が冷めんように上手いこと連絡とり続けて、来店できん間は貯金させとけよ」
その話で、ハライシさんの置かれてる状況をはっきりと理解した。
翌日、ハライシさんはいつもより遅く来店した。
「取引先に集金せなあかんかって、遅くなってしもた」
「……」
集金してからの来店。
元からそういう予定やったんかもしれへんけど、このタイミングで「集金」という言葉を聞くと……。
「ハライシさん、ご飯食べてる?」
笑ってるけど、顔色もよくない気がしてた。