都合のいいオトコ

──その日の深夜、非常階段で、私と店長は大喧嘩になった。

帰り際、今回が最後になるからと、店長に声をかけて挨拶をしたハライシさん。

そのとき、私が店を辞めることを残念に思うと言われてしまい、ハライシさんが帰ったあと、店長から詳しく説明しろと問いただされた。

「お前、何勝手なことしてんねん!!」

非常階段の折り返し地点で椅子がわりにと置かれてた、酒を詰むプラスチックのケース。店長はそれを足で蹴り飛ばして怒鳴り散らす。

店長からすれば、ハライシさんはお店のお客さんで、私はただのキャスト。

キャストの分際で、毎日通うような上客を二度と来ないようにした。怒るのは当然のことなんかもしれん。

でも、私は──

「このまま通わせてたら、ハライシさんがボロボロになる! 私はそこまで腐りたくない!」

今までは一方的に怒られてきたけれど、このときの私は、店長に噛みついて自分の言い分を曲げへんかった。

その日を機に、私は出勤しても、店長とは一切口をきかん状態になっていった。
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