都合のいいオトコ
ホンモノ
「ミツル、寝たん?」
「……寝てへん」
「寝るん?」
「寝ていいん? 起こさんでええんやったら寝るけど」
「それは……困るんやけど。でも眠いんやったら──」
「大丈夫やよ。横になってるだけ。……寝たりはせぇへんから、安心して寝いや」
ねぇ、ミツル。
私らはあのせまい車の中で、何度も一緒にシートを倒して横になってきたけど、一度も一線を超えへんかった。
けど、これは私だけなんかな? 長く見つめてみたり、少しでも腕に触れてしまえば、その健全さは簡単に崩れるような気はしててん。
月明かりだけに照らされていた真っ暗な道路。
音楽もかかってない車内で寝返りを打てば、服のこすれる音が耳につく。
ミツルはそれらを意識したことはあったんかな?
今更こんなこと思い出しても、ミツルはもう、私と過ごした頃のことなんて忘れてるんやろうけど。