都合のいいオトコ
数時間後──
「次は来年になるけどー、また来るわ」
「よいお年をー! またねー」
「ありがとうございました」
ついてたお客さんが帰って、チエリはこのあと来店予定のあるお客さんのことを、ボーイに伝えにいく。
そして、そのお客さんが来るまでは休憩したいと言って、トイレ前のボトル部屋でタバコを吸ってた。
チエリに呼ばれて、私もそこにおってんけど……。
「マイ、私と一緒にミナミへ行かへん?」
チエリはケータイを触りながら、突然、そんな話をしてくる。
「……“ミナミ”?」
「ちょっと遠いけどさ。……ここでおるよりはいいんやない? マイも」
それは、店長と不仲になってることや、他の子らからの当たりが前以上にひどくなったことを指してる言葉やった。
「最初は、マイにお客さんを託すつもりやってんけど、ダブル指名したことで、他からひがまれてるやろ?」
「……ひがみっていうか。あれは、ろくにお客さんも呼べん私が、チエリんとこで楽をしてるからやない?」
「楽なんかしてないやん。他のテーブルで気分転換もせんで、ずっと同じテーブルでおれるんは、ハライシさんで鍛えてきたマイやからできることやし」
「……でも目障りなんやと思うよ。頑張ってる子からしたら、私みたいなんは」
私が新規のお客さんのとこにつけなくなったのは、多分、店長がそう指示を出してるからや。
店の顧客を勝手に来なくさせたということで、私への信頼はなくなったんやと思う。