都合のいいオトコ
二次会の翌日、ミツルは電話をかけてこなかった。一日遅れで着信があったのを覚えてる。
「マイ、何してんねん。今接客中やろが!」
キャバクラの更衣室でケータイを触ってると、店長が怒ってくる。それはよくあることやった。
「……すぐ戻る」
着信履歴を確認すると、今日も、二次会で出会った男──ミツルの番号が新着として記されていた。
接客中にかかってきたのは、その1件だけ。かけてきてほしい相手からの連絡は、ないまま。
「今、ヘルプつけてるから、ちょっと待って」
更衣室を出ると、店長がすぐに席へ戻るのを止めてくる。インカムでボーイに声をかけ、私の代わりをしてくれていた女の子を引き下げる指示を出してた。
運がいいことに、私は勤めて間もない頃から、ハライシさんという良いお客さんに巡り会え、楽をさせてもらってた。
毎日、私の出勤時間に合わせ、高速で1時間かけて通ってくれ、ご飯とか行ってなかったのに同伴料金まで払ってくれる上に、大体、閉店時間までおってくれる。
そこまでお金を使ってても、一切、口説いてこない人。
その人のおかげで私は店のナンバー2になれてたし、お酒も無理をして飲まんでいいと言うてもらってたから、日中の仕事とのかけ持ちが続けられてたんやと思う。
でも、当時の私は、ずっとハライシさんについてらなあかんことが嫌やった。
他の女の子らは、接客の合間にケータイを触ったりしてるのに、私はそれができへんかったから。
だから、こっそり更衣室で確認してた。マコトから連絡が来てないかと。