都合のいいオトコ
「今日は待っとく」
周りには聞こえない声量で伝えられた。
「……でも、何時に上がれるかわからんし」
「何時でもええよ。俺も明日から休みやし」
久しぶりに見せた、強引さやった。
ミツルは気づいとったのかもしれん。遊園地の休みを理由にして、会わんようにしてたことに。
──酔いが回ってたこともあって、その後、3時過ぎには上がれた私。
コンビニの駐車場まで歩くと、車の中におったミツルは、おりて、そばまで駆け寄ってきた。
真っ直ぐ歩けてると思ってたけど、もしかしたら、フラフラしてたんかもしれん。
「おい、大丈夫かよ。足上がらんの?」
「……上げてる」
「全然上がってへんて。肩につかまって。……それ腕。ちゃう、それ腕。肩こっち!」
マンションの階段で、ふたりしてモタついたのは覚えてる。肩をつかんでるつもりが、毎回腕を持ってしまって、つっこんでたミツルが妙に面白かった。
「何笑ってんねん」
「だって“ちゃう、それ腕!”って」
「ゲラゲラ笑うな。夜中やぞ」
ミツルに抱えられながら帰宅した私。
ベッドに連れてかれて、ペットボトルのお茶を飲まされて、しばらくは横になってた。
多分、そこでひと眠りしたんやと思う。
体を起こしたとき、ミツルはクローゼットにもたれて座ってて、離れた場所から私のことを眺めてた。