都合のいいオトコ
「……」
やってしまった、と思った。
これまで、そこには触れんようにしてたのに、感情的になって墓穴を掘ってもうた。
このままやと関係が終わってしまう。そう察した私は──
「アホらしい。……風呂入るわ」
すぐさま立ち上がって、ミツルの前から去ろうとした。
でも、彼はそんな私の二の腕を掴んで引き止めてくる。
「逃げんな」
その言葉のあと体を持ち上げられ、すぐそばのベッドへと運ばれる。
先に座らせ、上に乗っかり、そのまま押し倒そうとするミツルは、私の頭が後ろにぶつからんよう、手を添えてきた。
「お前が夜を辞めるんやったら、養ってもええよ」
ミツルの影に覆われ、視界が暗い。
「金貯めたいんやったら一緒に住んだらええ。家賃とか払ったるよ。それなら昼だけでも貯金はできるやろ」
見上げた表情は、これまででいちばん冷たくて、いちばん切なかった。
まっすぐ見つめられ、何も言えずにいると、ミツルは苦しそうに目を細める。
「好きや」
かすれた声でつぶやかれた。
「……」
まさか、このタイミングで言われると思ってなかった。その驚きで、言葉を失う。
「あんな男もうやめて、俺にしとけ」
口調は強いのに、その声色はとても弱い。
「……」
鼻先がツンと痛くなった。
次第に、視界もじんわりと揺らいでく。
──言われたくなかった。
言われんように振る舞ってきたつもりやった。
言われたら、どう答えていいんかわからんし、私らの関係は、多分、終わってしまう。