都合のいいオトコ
ミツルは小さく息をつくと、ゆっくりと体を起こした。
「……俺は言うたで。次はそっちの番や」
その言い方を聞いたとき、ミツルも気づいてたんやなと思った。
私がミツルの気持ちを知ってたように、ミツルも私の気持ちを探ってた。
「なんも言わんのやったら、このまま俺のもんにするで?」
私にまたがって座るミツルからの、追求の言葉。
言わない選択肢なんて用意されてない。
ミツルはここでハッキリさせようとしてる。
「……っ」
目尻から、涙のつぶが流れてく。
耳が濡れて、まばたきをしても、ミツルの姿は涙でゆがんだままで。
泣いても、ミツルは逃げ場なんか与えてくれへん。ずっと私の言葉を待ってる。
このままじゃ、ほんまに。今日が最後になってしまうような気がして、私は声を振り絞った。
「……終わりたくない」
本音を口にしても、ミツルの表情は変わらんかった。悔しげに眉間にしわを寄せるだけ。
まだ一緒におりたい。いなくならんでほしい。
心地よかってん、ミツルとおるのが。
でも、今の私は……。
「……っ、ごめん」
まだマコトの連絡を待ってる。
26日の公衆電話から、頭ん中はマコトのことばっかりやった。ミツルと顔を合わすのも気まずいと思ってるところがあった。
そんな私やったら、あかんのやろ?
「ごめん、ミツルには行けやん」
顔をおおって泣きじゃくった。
終わらんでほしい。強くそう願いながら謝った。
そんな私をしばらく見つめてたミツルは、上を見上げ、はぁと脱力したような息を漏らす。
そして──
「わかった」
その言葉を置いて、私から離れた。