都合のいいオトコ
「ハライシさん、今日もラストまでおりそうか?」

「……どうやろ。おるんちゃう?」

当時、私が勤めてたのは、地元客が多いローカルのキャバクラ。

店長は、大阪市内に住んでる人が常連の太客になったことを喜んでて、最初は私の接客がよかったんやと勘違いし、色んな太客のところへ私を運んでた。

でも、ハライシさんが通うようになったのは、キャバクラに慣れてへんかった人が遊びを覚えただけのこと。つまりキャバ嬢の力量うんぬんの話ではなかって。

私は日中も働いてたから、お客さんに連絡するのを頑張っても、時間には限度はある。場内で指名をとっても、その縁を次へと繋げるのは難しかった。

次第に店長も私を太客につけるのをやめたから、私が持ってるお客さんでまともに通ってくれてたのはハライシさんだけ。

「お前なぁ、もっと欲を出せ!」

始まった。

店長は、ハライシさんに必死にならへん私を見ると、いつもそう言ってくる。

多分、ハライシさんが指名するのが私やってことが嫌なんやろう。もっと頑張ってる女の子なら、ボトルを下ろさせたり、シャンパンをねだってるやろうし、そうなれば店も儲かるから。

「おい、聞いてんか」

「……聞いてるよ」

うそ、聞き飽きた話やから聞き流してる。

ヘルプの女の子もハライシさんの席から外れてるし、そろそろ戻りたいのに、店長のお説教は毎回長い。

聞いてるふりをしながら、視線はこっそりと、今おる通路の先へと向けてる。

店の入り口では、私と同年代の若い客が、ぞろぞろとエレベーターからおりてきてて、ボーイが店のシステムを説明してた。
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