都合のいいオトコ
「……」
なんやろ、じっと、こっち見てるな。
見られてることに気づいてた私は、持ってた服を戻して、立ち止まってる男性に目を向ける。
その瞬間──
「え……」
これは夢の中なんかと疑ってしまった。
もう二度と会うことはないと思ってた人が、そこにおったから。
数秒間、お互いに目を合わせたままやった。
まぁ阪南やし、こっちのユニクロにも来ることはあるか。そう冷静に考える自分と、この状態どうしたらいいんやろと焦る自分がおって。
迷った結果、私は彼のそばに駆け寄った。
「ミツルやん! 久しぶり!」
「……おー」
髪、短く切ってる。
なんか、ちょっと雰囲気変わったな。
大人っぽくなってる。
「あははっ! “誰?”って言われるかもって思ってたけど、覚えてくれとったんや? よかったー」
私、絶対にテンションの高さを間違えてる。
もうちょっと、落ちついて声をかければよかった。
「元気にしてたー?」
「……それなりに」
「あははっ、よかったー。今も美容師なん?」
「うん」
懐かしい。少し垂れた目尻と、奥二重のまぶた。
何度も思い出してた顔がそこにある。
久しぶりやな、こうやって見上げるの。
「そっちは?」
「私は……」
近況を聞かれ、何を話すかと考えたとき──
“マコトとは別れたよ”
そのことを伝えたい気持ちに駆られた。
“マコトとは別れたよ”
“キャバ嬢もやめた”
“今は誰とも付き合ってない”
“ミツルは今、彼女おるの?”
言いたい言葉と、聞きたいことが、次々と頭に浮かぶ。