都合のいいオトコ

でも……。

「こないだ地元に戻ってん。今はこっちで暮らしてる」

あれから、だいぶ経ってる。

今更、そんなこと言えるわけない。

「あー、そろそろ行かなあかん。友だちおるから……」

下手なことを口走ってしまわんよう、急いでミツルから離れた。

「ごめん、待たせて」

「え? ゆっくり見ててええで?」

「ううん。もう買うから、次行こ」

友だちにも急かすように声をかけて、逃げるように立ち去った。

でも、その日から1週間ほどは、毎日再会したことを振り返ったりしてた。


そして、そこから2ヵ月くらい経ったとき──

「ミツルくんって子、知ってる?」

幼なじみのムッちゃんとの電話で、突然、その名前があがった。

「……阪南の?」

「そう。そのBBQにおってんけど、マイの話になってな。こないだ、ばったり会うたんやろ? ユニクロで」

「……うん」

「そっからマイの話をずっとしててなー」

ムッちゃんは、元カレのシューくんとまた連絡を取り始め、最近はよく友だちを入れて遊んでるらしい。

「ミツルくん優しいよなー」

「……うん」

「周りは男ばっかりやん。輪に入っていけんかったとき、ミツルくんが焼いたのくれて、シューが来るまで話し相手になってくれててん」

「そうなんや……」

ミツルが私の名前を出したのは、ムッちゃんとの共通の話題がそれしかなかったからなんやろう。

そこに深い意味なんてない。

「今度、マイも来うへん? ミツルくんにもさ、マイを呼ぼっかって言うててん」

「ミツルはなんて?」

「んー? 普通に笑ってたけど。なんも言うてなかったよ?」

「……そっか」

ほら、やっぱり。

向こうは何も思ってない。
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