都合のいいオトコ

細くて暗い通路を、ボーイを先頭に1列で歩いてくる連中。

私と店長は、お客さんたちの邪魔にならんよう端に寄っててんけど──

「え……」

いちばん後ろにおった男の子が、私の前を通り過ぎる瞬間、驚くような声を漏らした。


その後、ハライシさんの席へ戻った私に、ボーイの声がかかる。

「なんや、客を呼んどったんならちゃんとそう言うたらええのに!」

ハライシさんの席から外れると、店長は満面の笑みを浮かべて「この調子で頑張れよ」と励ましてくる。

ボーイから指名が入ったと聞かされたとき、思い浮かんだ顔はひとりだけやった。まさか、指名までしてくるとは思わんかったけど。


ボーイの後に続いて、呼ばれた席に向かうと、彼はどっしり座って、ロングドレスを着た私を見上げてくる。

「なるほどな。どうりで、ライターいっぱい持ってるわけや」

第一声は、二次会でのことを振り返るような言葉。

「……ご指名ありがとうございます。マイです」

名刺を渡すと、ミツルはすんなり受け取って「本名かよ」とつぶやいた。

「本名、教えた記憶ないねんけど?」

疑問に思ってたずねると、ミツルは「シューから聞いた」と返してくる。

「……シューくん、私のこと覚えてたんか」

私は、ムッちゃんからプリクラをもらってたから顔を覚えてるけど、シューくんは私のプリクラなんて持ってない。ムッちゃんと付き合ってる時期に、見せてもらってただけのはず。

だから、あの二次会では、元カノの幼なじみの存在には気づいてないと思ってた。
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