都合のいいオトコ
「今日はおらんのやね?」

ミツルの酒を作りながらテーブルを見回すと、ほとんどが二次会におったメンバーやった。でも、シューくんの姿はない。

「……アイツは高校んときの元カノを引きずってて、こういうとこにはこうへんの」

「そうなんや。誰かさんと違って一途なんやね?」

ナンパに慣れてたり、キャバクラに来てるから、そこを指摘したつもり。

でも、ミツルはその言葉を「私に対して一途じゃない」という意味で受け取ったらしい。

「電話にも出えへん女が何言うてん?」

ソファーの背もたれに腕を置き、露骨に顔を覗きこんでくる。

至近距離で見る、ミツルの顔。奥二重の少し垂れた目じりと泣きぼくろが似合わない、鋭い視線。

口もとは笑ってるけれど、口ぶりからして少し怒ってるように感じた。

何言うてんって言いたいのはこっちやし。連絡先を交換したわけでもなく、私は番号を奪われた状態やのに。

「……見ての通り、この時間は仕事中やから」

「じゃあ、昼にかける」

「日中も働いてる」

普段から他のお客さんともよく繰り広げてた、このやり取り。慣れてるから迷わずに即答すると、ミツルは疑うような表情をする。

「……ほんまに働いてるよ」

「じゃあ、いつ空いてん?」

酒が入ってるからか、ミツルは私に顔を近づけたまま。話し方もこの前とは違って、遠慮がなくなってきてる。

「めっちゃ女慣れしてるやん。私、遊ばれるの怖いんやけど?」

一度、距離感を元に戻したい。

立場を考え、主導権はミツルにあるような言葉を選び、その上で一線を引くと、彼は傾けていた体を元に戻す。
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