都合のいいオトコ
「がっついてないわ」

ミツルはブスッとした表情で言い返してるけど、その間もずっと、手は私の手を握ったままやった。


それから間もなくして、再び、ボーイが私に声をかけてくる。ハライシさんの席へ戻る時間やった。

「なんでなん。俺、指名してんけど?」

「……さっきいた席でも、指名もらってるねん」

そばを離れようとする私を、引き留めようとするミツル。

「あっそ」

素っ気なく私の手を離し、ふてぶてしい態度で身を引いてたけれど──

「何時でもええから連絡して」

ミツルは席を立った私の手を、もう一度、握ってきた。




──ねぇ、ミツル。

これは、ミツルとの関係が終わった後で耳にした話なんやけど。

あの日、一緒に来てたミツルの友達は、狙ってた女の子にスルーされっぱなしのミツルを励ますため、キャバクラへと誘ったらしいね。

そこでおったのが、私やった。

ミツルの友達は、スルーしてる子と私が同一人物やと思ってなかったから、キャバクラに来てからのミツルの切り替えの速さに笑い転げてたんやな。

あの日は、私も「簡単に運命って言葉を使う人なんやな」と呆れてたけど、その話を聞いて、そう言うたミツルの気持ちが少しわかったよ。

……運命ではなかったけど。
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