都合のいいオトコ

動き出した歯車


キャバクラで勤めてると、定期的に悲鳴をあげたくなる日が訪れる。その日も、そんな夜を迎えてた。

深夜3時半、店が手配した送りの車で帰宅。

気持ちが沈んで朝まで働けんくなった私は、ハライシさんに早めに帰ってもらえるよう頼んで、店長にはハライシさんがいないことを理由に「帰りたい」と申し出た。

「ハッ、ハァ……」

自宅マンションのオートロックを開けてるときから、ポロポロと涙が溢れ出し、息もしづらくなってた。

当時は親のことでもかなり悩んでたし、マコトにも連絡がつかん状態で、常に孤独を感じてたから、ストレスからの過呼吸やったんやと思う。

家の玄関ではヒールを雑に脱ぎ捨てて、足早に部屋へ入ると、そのままなだれ込むようにしてソファーに顔をうずめてた。

うずめてると、急に酔いがまわってくる。頭がクラクラして、気持ち悪くて、心臓もバクバク言うてるし、このまま死んでしまうんやないかと怖くなってくる。

「……マコト」

会いたかった。声が聞きたかった。

接客してると、たまに考えてしまう。私はなんでこの人と話してるんかな、って。

好きでもない男に愛想を振りまき、好きでもないのに連絡を取り続けてる。

一緒にいたいのはマコトやのに。聞きたいのはマコトの声やのに、私はなんでこんなことをしてるんかなって。

生活のためやった。住む場所が急になくなって苦労したし、ひとり暮らしをしてからも、親とか頼れる相手はおらんかったから、お金に困らんよう夜も働いてた。

そういう仕事なんやから仕方ないことやって思ってる。

それでも、時々、そんな気持ちが津波のように押し寄せてきて、溢れ出すと泣き叫んだりして変になってた。
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