都合のいいオトコ
「……もーし」

落ち着いた口調。何回も話してきたのに、このとき初めて声を聞いた気がした。

「ごめん。……こんな時間に、急にかけて」

「んー。ええよ」

ミツルの背後から微かに聞こえる、車が通る音。重ねて、荒い砂の上を歩くような足音も聞こえてくる。

「……外?」

「ちょっと待って。……おー。また連絡する」

私の声をさえぎった彼は、そばにおったらしい誰かに声をかけとった。

言われた通り待ってると、再び足音が聞こえ始める。

「飲んでて、今帰り」

「……そっか」

どうやら、タイミングは悪くなかったみたい。

「マイは店?」

「……ううん、家。朝の7時過ぎに家を出なあかんねんけど……今から寝たら起きられへんと思うから」

「俺酒入ってるからそっち行かれへんで?」

「あ、来んでいいです」

「めっちゃ即答やんけ」

「……少し話し相手になってほしくて電話してん」

正直に電話をかけた理由を言うと、ミツルはけだるげに「ふうん」とつぶやくだけ。

迷惑やったんかも。飲んでるんやったら、すぐ寝たいやろうし。そう考えて、「あ、でも」と付け足し、電話を切る方向に持っていこうとしてたら──

「俺はこんな電話されたら、マイにはそういう相手もおらんのやなってとらえるけど。それでええ?」

ミツルは私に親しい男がいるのかどうか探ってくる。

「……」

言われて思い浮かべたのは、マコトの姿。

どう返事すればええんかわからんかった。
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