都合のいいオトコ
今はマコトと別れてるけど、別れてなくても、私はマコトにこういう電話はかけてないと思う。だって、マコトは一度も、私からかけた電話に応じたことがないから。

電話できたのは、向こうからかけてきたときだけやった。「少しでいいから」とメールで頼んでも、マコトはその声を聞かせてくれることはなかった。

いつしか、私の中でマコトと電話したいって考えはなくなっていったし、できへんことを悲しく思う気持ちもなくなっていった。

でも、だからといって、この質問に「うん」と答えたら、きっとミツルは「そういう相手はおらんのやな」と判断するはず……。

沈黙が長すぎたんか、しびれを切らしたミツルは「まぁええわ」とこの話を終わらせてくる。

「……ちょっと待ってて。家着いたから部屋に行くまで静かになる」

実家で暮らしてるんやと思う。その言葉の後、耳にカサカサした音が入る。

鍵を開けて家に入る音。

しんと静まり返ったと思えば、今度は冷蔵庫を閉める音がして、階段をあがる足音と共に、服がこすれる音が聞こえてくる。

そして、キィ……と静かに開いたドアが閉められた後、ミツルは疲れたというかのように息をつき、ひと呼吸置いてから「もしもし?」と話しかけてきた。

「家出るって、言うてた昼間の仕事?」

「うん」

「何やってん?」

「……遊園地のバイト」

「ユニバ?」

「ちゃう。……岬」

「すぐそこやん」

私が働いてた小さな遊園地は、ミツルの地元の隣町にあって。私はミツルにどこまで自分のことを話していいのかで迷いながら、質問に答えてた。
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