都合のいいオトコ
イライラしながら更衣室に入った私は、ロッカーからダウンジャケットを出して、店の非常階段へと向かう。
タバコを吸いながら待機しようとしてたら、先客がおった。
「あれ? ハライシさん帰ったから、マイも帰るんかなって思ってた」
ナンバー1のチエリ。この店の中で、いちばん気が合う女の子やった。
「……上がり待機。送りの車が戻れば帰っていいらしいけど」
「あははっ。うまいことかわされたなぁ」
「チエリも?」
「うん。ヨッシーが予想より早く帰ったから、今、タクちゃんに声かけてるとこ。私もハライシさんみたいに、オープンラスト居ってくれるお客さんがほしいわ」
チエリはずば抜けて成績がいいキャバ嬢やった。
暇な時間は全てお客さんとの連絡に使ってるし、ラストを迎えた私はソファーで睡眠をとるけど、チエリは夜一本やから、閉店後もケータイを触り続けてる。
「チエリが上がり待機なら、絶対帰られへんやん」
「あははっ。多分マイは私んとこにつくやろね」
チエリのことやから1時間もせん間に、ひと組かふた組、お客さんを呼ぶはずや。
店長は、チエリと私の相性がいいことを知ってるから、多分、チエリのテーブルの“お連れさん”のほうに私をつかせるはず。