都合のいいオトコ
タバコの煙を吐くと同時に、深いため息がこぼれる。
肩を落とした私を横目に、チエリは口を開いた。
「店長、マイを夜一本にさせたいんやと思う。B指名では何回も1位になってるから」
「1位なんは、チエリがA指名で埋めつくしてるからやろ」
B指名ってのは場内指名のこと。指名無しで来店したお客さんから指名をもらったら、成績のポイントがつく。
B指名のお客さんと連絡を取り続け、その後の来店時に自分を指名してもらえたら、そのお客さんはA指名に変わる。
その場合、店がお客さんを呼んだわけじゃなく、女の子がお客さんを呼んだと考えられ、成績のポイントはB指名の倍つけられる。
チエリは毎日たくさんのお客さんを呼んでるから、指名客のテーブルばかりにおって、新規のお客さんのとこにつく時間がない。
だから、B指名ランキングではいつも最下位。その代わり、A指名ランキングでは、群をはるかにぬいて1位におる。
「マイがBをAにしたら、順位は抜かれると思う。私にはハライシさんみたいな人おらんから」
「私、そこまで連絡するほど時間ないし」
「だから、夜一本にさせたいんちゃう? 店長は」
「今で十分や。……もう帰りたい」
自分のひざに顔をうずめてると、チエリはそんな私の頭を軽く撫でてくる。