都合のいいオトコ
「……ミツル」
1本の電話がかかってきた。
この前、話し相手になってもらったこともあって、私は抵抗なく電話に出てんけど
「あー、まだ店?」
突然、キャバクラにおるのかどうか聞かれた。
「うん」と答えると、ミツルは背後にいた友だちらしき人らと話をし始める。
「もうちょっとで店につくんやけど、行くわ」
告げられたのは、これから来店するという話。わざわざ連絡をしてきたってことは、私を指名するという意味が込められてたと思う。
「……」
口もとが引きつった。
これで私を指名するお客さんが来店したら、店長の機嫌はきっと治るはず。
でも、「こうすればマイは客を呼ぶ」と思われ、これからも同じ手を使われるような気がしたから。
「……んでいい」
「え? なんて?」
駐車場かどっかについたんやと思う。
車をバックさせるときのピーピーという機械音がして、そのあと、エンジンをとめた音がした。
もう近くにおるんやとわかった私は、
「来んでいい!」
慌てて、大きな声で叫んでしまった。
「なんで? おるんやろ?」
「帰りたいねん。来てもええけど指名はせんでほしい、お願い」
必死に頼み込むと、ミツルはしばらく黙ってた。
電話の向こうでは、彼を呼ぶ声。
「……先上がっといて」
ミツルがそう返事をした後、車にかけたロックをはずす機械音がした。