都合のいいオトコ

「だから、ミツルとどうこうなるつもりはないかな」

マコトと別れてても、縁までもが切れたとは思えん。連絡が取られへん状況でも、きっと、いや絶対に、いつかは連絡が来ると確信してる。

そんな状態で他の人を見たりなんかしたら──

「“アントくん”……やったっけ? 一時期付き合ってた人。その人のこと後悔してるん?」

シイちゃんに図星をつかれた。

“アント”

その名前を聞くと、数ヶ月前のことが頭の中に浮かぶ。

私んちの廊下。あんなせまい場所で、オトコふたりが取っ組み合いになって言い争った。

“ごめんなさい”

追い込まれてた私のその言葉で、場は落ち着いたけれど。あのとき私が流した涙は、とても醜かった。

「後悔はしてる。……私はアントを都合よく使ってただけやったから」

「でも、向こうも同じ状態やったんやろ?」

「……最初はそうやったけど、最後のほうはそうやなかったし」

この人を選べば幸せになれると思った。

でも、私は結局、マコトを選んだ。

「そっかぁ」

当時のことを知ってるシイちゃんは、それっきり何も言うてこんかった。他の話題にと切り替えて、遊園地での話を振ってくれてた。

でも、自分がおりる貝塚駅に到着する前に──

「ごめん、マイちゃん。ぶり返すけど、これだけ」

そう言うて、遊園地の話をぶった切ってきた。
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