都合のいいオトコ
「マイちゃんは浮気したわけやないんやから、罪悪感なんて持つ必要ないで。アントくんとはそうなるかもしれんって最初からわかってたことやんか」
「……わかってたんかな」
「こんなん言うたら悪いけど、私はわかってたで。もしかしたらそういうふうになるかもなぁって思ってた」
「そうなん?」
「うん。……結果的には、マイちゃんがアントくんを傷つけることになってもうたけど、逆にアントくんがマイちゃんを傷つけることだって全然ありえたと思う」
「……」
シイちゃんの言葉で、当時の自分たちを振り返る。
確かに、不安定な関係やった。
「まぁ、私もアントも……相手を都合よく使ってたしな」
そう考えると、どっちにしろ、いつかはあかんようになってたんかなと思えてくる。
「みんなそんなもんやで。そのときそのときで、自分にとって都合のいい相手を選んでるしな」
「……都合のいい相手?」
「マイちゃんはあのとき、幸せになりたくてアントくんを選んだんやろ?」
「……うん」
「マコトくんに戻ったのも、マコトくんとおるほうが幸せやと思ったからやん。結婚してるんやないんやから、そのときそのときの気持ちで選んだらいいんよ」
電車の速度が落ちてく。
車内放送が流れる中、シイちゃんは座席から離れて、座ったままの私に微笑みかけてくる。
「今回もさ、マイちゃんはいつかマコトくんに戻るんかもしれんけど、今はミツルくんとおりたいって思うんやったら、付き合ってもいいと思う。……浮気やないんやから。マイちゃんは自由なんやでっ」