都合のいいオトコ

貝塚駅から走り出す電車の中、ホームを歩くシイちゃんにヒラヒラと手を振ってた私は、腕をおろしてから小さくため息をついた。

……シイちゃん、今まででいちばん嬉しそうやった。

仲良くなったばかりの頃、シイちゃんは旦那さんとの出会いから結婚までの流れを教えてくれて、私も彼氏やったマコトとのことを話した。

うん、うん、と否定せずに聞いてくれてたけど、その表情は何か言いたげで。心配されてるのがよくわかった。

その後、「マコトと別れた」と伝えたときも、シイちゃんは私の顔色をうかがって、よりを戻したがってる気持ちを察してくれた。

他の子みたいに、マコトのことを反対したりせえへん人。でも、「ガンバレ」とは言ってくれへんかった。

そして、アントと付き合ったばかりの頃、シイちゃんは複雑そうやった。「そっか」と聞いてくれてたけど、あまり喜んでくれへんかった。

でも、今日のシイちゃんは──

“いーやん!”

めっちゃ嬉しそうやった。

改めて、シイちゃんはそれまでのふたりに対して、いいイメージは持ってないんやなって思った。

「……」

幼なじみのムッちゃんからも言われたことがある。

“同じことの繰り返しやん。意味ないで”

マコトとは早く縁を切ったほうがいいって説得された。
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