都合のいいオトコ
予防線
シイちゃんと話したことで、私のミツルを見る目は少しだけ変わってたんやと思う。
数日後の夜はめっちゃ寒かった。
午前4時。天気予報では雪も降るっていうてたけど、店から出ると降ってたのはただの雨。それでも、手先が痛くなるくらい外は冷え切ってた。
「……あのおっさん、毎日おるん?」
「え?」
「俺と指名がかぶってたヤツ。マイから終わったって連絡あると、毎回あのおっさんが出てくるから」
「あー……うん」
その日は、ミツルもらしくなかった。
いつもはキャバクラのお客さんのこととか聞いてけえへんのに、ハライシさんのことを気にしとった。
うなずいてから、チラッと横顔を見てみたら、ミツルは不機嫌そうにタバコを吸ってた。
「行ってらっしゃい」
コンビニの駐車場で車をとめたミツルは、そう言って、いつも通り運転席のシートを後ろに倒した。
車をおりた私も、いつも通り自宅まで歩いててんけど。
「……」
少ししてから足を止め、ミツルの車をじっと眺めてた。
私の支度にかける時間が長すぎると、たまに文句を言うてくるミツル。
頬にあたる風が冷たくて、吐息も真っ白。傘がはじく雨粒の音も結構激しくて。
そこでずっと待たせることに罪悪感を抱いた。
車に戻って、運転席の窓をノックすると、ミツルは少し驚いた顔で起き上がる。
「……うちで待つ?」
窓をおろした彼にそう声をかけると、ミツルはまっすぐ私を見つめ、何も言わずに車のエンジンを切った。