都合のいいオトコ

マンションの階段をあがってるとき、私は自分がどうしたいのかわからんくなってた。

家まで教えるつもりはなかったのに、どうしたん私。早まった? でも、今更「やっぱやめる」とは言えやん。

そう考えながら、部屋の前まで歩いてた。

「ちょっと待ってて。……片付けるから」

自分だけ先に入って、急ぎ足で部屋に向かう。

脱ぎ散らかしてるスウェットを拾い上げて、洗濯機に放り込み、テーブルの上に置きっぱなしやったコップをシンクへと運んで、水につける。

他にやることは無いかと部屋を見回す私は、カラーボックスの上で飾ってる写真立てに目を向けた。

付き合い始めたばかりの頃に撮った、ふたりの写真。

手にとって、すぐに本棚の隅に突っ込んだ。でも──

「……」

数秒考えてから、私はそれを元の位置に戻す。そして、立てて飾らずに、伏せるだけにしておいた。

「いいよ」

ミツルを部屋へ呼ぶ。

「テキトーにテレビとか観て。……こんな時間やと、しょうもないもんしかやってへんけど」

冷蔵庫で冷やしてた缶コーヒーを手渡して、私はすぐにシャワーを浴びに行く。

部屋を離れる前に様子をうかがうと、ミツルはテーブルのそばに座って、テレビのリモコンに手を伸ばしてた。
< 49 / 142 >

この作品をシェア

pagetop