都合のいいオトコ
マンションの階段をあがってるとき、私は自分がどうしたいのかわからんくなってた。
家まで教えるつもりはなかったのに、どうしたん私。早まった? でも、今更「やっぱやめる」とは言えやん。
そう考えながら、部屋の前まで歩いてた。
「ちょっと待ってて。……片付けるから」
自分だけ先に入って、急ぎ足で部屋に向かう。
脱ぎ散らかしてるスウェットを拾い上げて、洗濯機に放り込み、テーブルの上に置きっぱなしやったコップをシンクへと運んで、水につける。
他にやることは無いかと部屋を見回す私は、カラーボックスの上で飾ってる写真立てに目を向けた。
付き合い始めたばかりの頃に撮った、ふたりの写真。
手にとって、すぐに本棚の隅に突っ込んだ。でも──
「……」
数秒考えてから、私はそれを元の位置に戻す。そして、立てて飾らずに、伏せるだけにしておいた。
「いいよ」
ミツルを部屋へ呼ぶ。
「テキトーにテレビとか観て。……こんな時間やと、しょうもないもんしかやってへんけど」
冷蔵庫で冷やしてた缶コーヒーを手渡して、私はすぐにシャワーを浴びに行く。
部屋を離れる前に様子をうかがうと、ミツルはテーブルのそばに座って、テレビのリモコンに手を伸ばしてた。