都合のいいオトコ

シャワーを浴びてる間、私は数ヵ月前を思い出してた。


──アントと出逢ったのは、今年の6月。

「え! 俺、中1んときそこ通ってたで」

「マジで?」

「うん、引っ越して中2から他の学校やったけど」

「えー、歳聞いてもいい?」

「21。今年22」

「うわ……一緒や」

キャバクラのお客さんやった。

場内指名をとってから同級生やったとわかって、私らの距離は一気に縮んだ。


当時の私は、マコトと連絡が取られへんようになって、毎日泣いとった。

「夏になったら一緒に花火を観たい」って言うたことを後悔してた。言わんかったら、きっと「別れよ」とまでは言われてなかったと思うから。


「ヤマシタ知ってる? アイツとは今でも仲ええで」

「ヤマシタくんかー。知ってるけど喋ったことないわ。幼なじみのムッちゃんは仲良かったと思う」

「マジで? じゃあ、今度4人で遊ぼう!」

アントとはしょっちゅうメールしてて、夜の仕事がない日は長々と電話までするようになってた。


「今日、何の日か知ってる?」

「七夕やろ?」

「そう、彦星と織姫が逢う日。俺らも逢っとく?」

電話中、急に誘われて、夜中に車で会いに来てくれた。

行くところもなくて、テキトーに入ったTSUTAYA。

おすすめの漫画とか教え合って時間をつぶし、他の場所に行こうってことになって、駐車場へ向かってんけど。

「マイ」

車のそばで、アントは買ったばかりの雑誌を袋から出して、私に差し出した。

「俺と、コレ前提で付き合ってくれへん?」

ウェディング情報誌のゼクシィ。

付き合ってもないのに結婚の話までされて、どう反応したらええんか困っててんけど。

「……ごめん、順番おかしいな」

受け取れずにいた私の顔色をうかがい、自分の行動を後悔してる表情が可愛く見えてしまった。
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