都合のいいオトコ
「飲んでんの?」
違うとわかったのは、布団の上から覆いかぶさられ、耳元でそう囁かれたときやった。
「……は!? なんで!?」
「なんでって、マンションに入れたのそっちやん」
マコトやった。
「帰って! ちょっ、離れてや!」
力いっぱい押しのけると、マコトはテーブルの上に目を向ける。灰皿に残ってた私のものじゃない吸殻を見て「男おるんけ?」と聞いてきた。
「……おる。だから帰って」
「待ってや。一本吸わせて」
「吸わんと帰って!! 早く!!」
やばい、やばい、と焦ってた。
あれから何時間経ったのかもわからんかったし、こうしてる間にもアントはこの家に向かってるかもしれへん。
アントとマコトが鉢合わせるのを想像し、きっと、顔は真っ青になってたと思う。
「お願いやから!」
勝手に座り込んでタバコを吸い始めたマコトの腕を、グイッと引っ張りあげ、家から追い出そうとする私。
でもマコトは──
「なぁマイ」
腕を掴み返して、いとも容易く、私の体を引き寄せた。
「より戻そう?」
「っ……」
懐かしいマコトの匂い。恋しかった大きな手。
記憶の中であいまいになってきてたものも、全て鮮明に戻る。
抱きしめられ、心がクラッと揺らいだ。