都合のいいオトコ
アントは、マコトの腕から私を引き剥がそうとしてたけど、マコトはアントの指が少しでも私に触れると、荒々しく怒鳴り散らす。
カッとしたアントも、マコトの体を壁に押し付けたりしてて、次第に、ふたりはせまい廊下で取っ組み合いになった。
「返せ! 俺にはマイしかおらんねん!」
マコトのその言葉は、全く理解出来んかった。
いつも私を放ったらかしにして、振り回すだけ振り回して、都合が悪くなったらポイッと捨てるのに。
なんで、そこまで必死に私を取り戻そうとするんか、ほんまわからんくて。
でも、その叫び声は私の胸にグサグサ突き刺さってた。
「……警察呼ぶ?」
らちが明かないと言うかのように、アントはケータイを触り始めた。
「待って」
通報しようとするアントを見て、思わず止めに入る。
「コイツやばいって。警察呼んだほうがいい」
アントの言う通りやった。
めちゃくちゃなことばっか言うて、ほんま迷惑で、警察を呼ばれても仕方ないレベル。
でも、私は──
「……ごめんなさい」
マコトの必死さに胸をうたれてた。
忘れさせるとまで言うてくれてた人を、私は裏切った。ぼう然とするアントにひたすら謝り続け、結局、マコトに戻ってしまった。
アントが去った後、
「なぁマイ、これ浮気やで。……聞いてる?」
「……アホ、私ら別れとったやんか」
めちゃくちゃな言葉に呆れながらも、私は、疲れてぐったりしてるマコトを抱きしめる。
幸せになれやんかったのに、嬉し涙まで流して。