都合のいいオトコ

見透かされたずるさ


ミツルはテーブルにひじをついて、だらっとした体勢でテレビを眺めてた。

私が戻っても視線をよこすだけ。その態度を怖く感じるのは、私の中に後ろめたさがあるからなのか。

「……テレビ、通販しかやってない?」

ミツルから目をそらす。テレビのほうを向きながら、視線はその隣のカラーボックスの上。

写真立ては伏せたままになってた。

「んー、ウトウトしとった」

「……ちょっと寝る?」

「いや、大丈夫」

目つきが鋭いような気がしたのは眠たかったから?

ミツルの顔色をうかがいながら、ドライヤーを出すと、

「……ん」

よこせ、と言うかのように手を出された。

「頭、ちゃんと洗ったんけ?」

「洗ってます」

テーブルのそばに座ると、ひざ立ちで乾かしてくれる。

強めの風と、首をかするミツルの手。髪への触れ方がそれっぽくて、改めて、美容師なんやなと思った。

「……化粧していい?」

「えーよ」

乾かされながら、支度を始める私。

今更やけど、こんなに平和やと、写真立てをあんな形で置いといたことを後悔してしまう。

「この後で見られたら」と考え、隙を見て隠そうかなって思ってた。


髪の毛がふわふわと風になびくようになった頃──

「……ジロジロ見んで」

「見てへんよ」

眉毛を描いてると、鏡越しに何度も目が合う。

「……」

「……」

「見てるやん」

「見てへんって」

鏡に映ったミツルの口はにんまりと笑ってて、私は眉毛が見えなくなるように鏡を持って、化粧を続けてた。

でも、ミツル相手やと素の自分でおれる。スッピンかって、見せることに抵抗がなかった。

いつの間に、こんな仲良くなってたんやろ。

想像してしまう。付き合ったらこんなふうに過ごすんかな、って。

シイちゃんの言う通り、ミツルとおってもいいんかもしれへん。気持ちもそう傾き始めてた。
< 58 / 142 >

この作品をシェア

pagetop