都合のいいオトコ
でも、そんなふうにまで思えた平和な時間は、長くはもたんかった。
「部屋で寝んの?」
「ううん、車で寝たい。ここやと熟睡しそうやから」
「熟睡したほうがええんちゃうの?」
「いや、怖い。遅刻したくないから」
準備を終えた私は、すぐに家を出ることを選んだ。
鏡とポーチを元の場所に戻して、カバンを持つと、同じように立ったミツルも、テーブルに置いてた車のキーとタバコをポケットに入れる。
電気を消すから先に出てもらおうと思い、ミツルが部屋を出ていくのを待ってたら──
「……じゃあ、車ん中で詳しく聞くわ」
ミツルはそう言うて、カラーボックスの前に立つ。
「この彼氏の話」
伏せてた写真を立て直して、彼はにっこり微笑んできた。
「……」
あまりにも突然すぎて、私はあ然とする。
やっぱり見てたんや。
そう心の中でつぶやきながら、返した言葉は──
「彼氏ちゃう。……元カレ」
言い訳じみた口ぶりになってたかもしれん。
でも、ミツルからすれば、そんなん言い直されてもって感じやったんやと思う。
「へぇ。……かっこいいやん、堂珍みたい」
笑ってたけど、笑ってなかった。