都合のいいオトコ
「……わかった。もういい」
いつまで経っても同じことの繰り返しで、とぼけられることを面倒くさく感じた私は、通話を終わらせる。
でも、そのうち話す機会はあるやろと考えてた。
このときの私は、次の日も同じ対応をされるとは思ってもみぃひんかった。
──翌日の深夜4時。
ミツルにまた「誰?」と聞かれた私は、仕方なく、店が出す送りの車を待ってた。
すると、
「あれ? マイ、まだおったんや?」
間もなくして、ナンバー1のチエリも私服姿で、非常階段に現れた。
「……チエリも帰るん?」
「うん。帰るー」
珍しいことやった。
チエリはいつも店のオープン前から出勤してて、閉店後もすぐに帰らんと、ずっと店に残ってた子。
家まで送るのも、送りの車やなく店長直々というVIP対応。
「お客さんは?」
「んー……今日はもう帰りたくて。マイの真似して、追い出した」
「言い方!」
「あははっ。でもほんまのことやん? マイも帰りたい時間に、ハライシさんを帰らせてるやろ?」
「……そうやけど」
チエリの言葉は間違ってない。けど、そこまでハッキリ言われると、ハライシさんに対して罪悪感を抱く。
「迎えにきてるオトコ、おるんやって? その人待ってるん?」
「……え」
ミツルのことは教えてないのに、知ったような口ぶり。
目を丸くしてたら、チエリは笑みを浮かべて言葉を付け足す。
「私はボーイから聞いてたけど、他の子らも知ってると思うよ。……店長の耳にも入ってるはずやし」
「……マジで?」
「うんー。だって、そこのコンビニで待たせてんやろ? バレバレやん。隠したいなら、他の場所で待たせたほうがええよ?」
「……そっか」
言われてみると、店のビルからコンビニまでは歩いて1分ほど。
店の人間が私らを見かけてもおかしくはなかった。