都合のいいオトコ

その後、私らふたりは送りの車を待たずに、タクシーを1台呼んだ。

「あははっ。ほんま何もない部屋やーん」

「……これでも物は増えたほうやけど」

「そうなん? でも全然可愛くない部屋やー」

「失礼やな!」

ウチに来てからのチエリは、陽気によう喋ってた。

「なんか飲むー? 酒もあるし、お茶とかジュースもあるけど」

「あったかい紅茶ぁ」

「……緑茶で許して」

「あははっ。ほんま何もないなぁー」

「うるさいな、もう!」

笑顔で憎まれ口をたたくチエリ。

言い返しながらも、私はその様子をうかがってた。明らかに「ふつう」ではなかったから。

チエリはいくつも顔を持ってる子。

出逢ったばかりの頃は、クールで物静かな女の子やと思ってた。

他の子らはかたまってギャーギャー騒いでるのに、チエリはいつもひとりで、ケータイを触ってて。

「あの子、性格悪いで」と他の子から言われたこともあるし、接客中のキャラ変には驚いたりもした。

お客さんの前では、いつもニコニコ笑ってて、今みたいに失礼なことを笑顔で言ったりする。

可愛い声であははって笑いながら、傷つけない程度で言うから、お客さんも手の上で転がされてるような気分になって、その毒舌にどんどんハマるんやと思う。

私がナンバー2になった頃から、仲良かった女の子らの態度が変わっていった。よそよそしくなって、一線引いた付き合い方をされるようになって。

女の子たちとの関係に悩んでたとき、チエリから声がかかった。「今日も頑張ろ」って、いきなり。

そっから、どんどん打ち解けていったんやけど、今のチエリは私相手に接客してるような気がする。
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