都合のいいオトコ

「あー、これがマコトか」

カラーボックスの前に立って、写真立てを見られた。

「ふうん。なんかに似てる」

「……ケミストリーの堂珍?」

「あー、似てるかも。堂珍の顔、忘れてるけどー。あ、マイも金髪やーん」

「店に入った頃もその色やったで」

「そうやったっけ? ……あははっ! 全く覚えてへん。最近までマイには興味なかったからー」

「でしょーね」

テレビをテキトーにつけながら、なかなか座らんチエリを見上げる。

頭ん中では、店を出るときのチエリと店長を思い出してた。仲良かったふたりが目も合わせなかったところを。

「……ケンカでもしたん? 店長と」

声をかけると、チエリは写真立てを元に戻して、こっちを向いた。

「“ケンカ”かぁ。……マイってどこまで気づいてるん?」

ようやく腰を下ろした彼女は、私の顔色をうかがいながら、そう問いかけてきた。

「……んー」

今までの私らは、私の話しかしてへんかった。

チエリはいつも聞く側に回ってて、自分のことを話してけえへん。

私も、相手が相手なだけに、むやみに聞くってことができへんくて、チエリから話してくるのを待ってたけど……。
< 69 / 142 >

この作品をシェア

pagetop