都合のいいオトコ

その後、ミツルもすぐに戻ってたみたいやけど、こっちの席には寄ってこんかった。

ビンゴ大会のときに1回だけ目が合ったけど、私はすぐ目をそらしたし、ミツルもシューくんらとずっとおったから、女を引っかけるのはあきらめたんやなと思ってた。

──そう安心しとったから、二次会が終わった後の私はなんの警戒もしてなくて。

店の前でユミちゃんたち夫婦と写真を撮った後、タクシーに乗ったナギを見送る。

私は歩いて帰れる距離でひとり暮らしをしてたから、結構、最後の方まで残ってて、彼氏が迎えに来るっていうハナとも立ち話をしててんけど。

そのハナもおらんなって、そろそろ帰るかと歩き始めたとき、まだ残ってる人らの中からひとりの男がこっちへと近づいてきた。

「……あげるって言うたのに」

差し出されたライター。

私はいらんって言いながらも、返されるそれを受け取ろうとする。

けど──

「番号教えて?」

ミツルの手はライターを放そうとせえへん。

互いにライターの端っこを掴んだ状態で、私たちは目を合わす。

「……ケータイ持ってないから」

受け取るのをやめて手を離すと、ミツルは口もとをゆるめ、すぐさま私のカバンへと手を伸ばしてくる。

「あっ」

見えるとこに入ってたんやと思う。

一瞬でケータイを奪われてしまった。
< 8 / 142 >

この作品をシェア

pagetop