都合のいいオトコ
──シイちゃんと話した日から約1週間後の、金曜日の夜。
「マイちゃんの友だち、最近見かけへんなぁ」
「……チエリは最近、よく休んでるから」
ハライシさんのテーブルから店内の様子を見回す。
今日もリサちゃんは忙しそうに、あっちこっちのテーブルで接客してる。これまでのチエリと同じ状況やった。
「……お手洗い行ってきます」
「行ってらっしゃい」
スタッフ専用のトイレに行こうと席を離れると、隅で店内をうかがってた店長とはちあわせた。
「髪型変えたんか」
いつもしかめっ面の店長が、私の前髪に触れてくる。
「こっちのほうが似合ってる」
急に優しい口調になったことに嫌悪感を抱いた。私のことも手玉に取ろうとしてるのか、と腹が立って……。
「崩れるから」
露骨に店長の手を払いのけた。
そのままトイレへ向かおうとしてたら、
「自分の都合で客を帰らすクセ、そろそろ辞めろ」
手前のボトル置き場で、腕をつかまれた。
「ラストまで働かれへんのなら、ハライシさんを帰らせるんやなく、もうひとり指名させたらいい。客はラストまでおれるようにしろ」
店長は、帰りたがる私のことは、諦めたようやった。
でもそれって、結局は私からハライシさんを取り上げるつもりなんやろ?
ダブル指名にしたら、店長のことやから、絶対にふたり目の子には発破をかけるはず。マイから奪え、と。
「“リサちゃん”を呼べって?」
あえて、その名前を口にすると、店長はあからさまに表情を引きつらせた。
私とチエリが仲いいことを知ってるから、そういう意味で言うてるってわかったはずや。
「……放して。トイレ行きたいから」
手を振りほどいて、店長から離れた。
逃げ込んだトイレの壁には、キャストの成績を記した今月のポスターが貼られてる。
ナンバー1やったチエリのグラフは、平均の半分までしか伸びてなかった。