都合のいいオトコ
トイレから戻ると、ハライシさんのそばには店長がおった。私の代わりに接客してる様子やった。
「……それでは」
私が戻ると、すぐさま席を外す。
「店長さん、若いのにしっかりしてるな~」
ハライシさんは満面の笑みで、気分良く送り出してた。
普段、接客の場に顔を出すことがない店長が、直々に挨拶をしに来る。そういう特別な対応は、常連客からすれば嬉しいことやと思う。
でも、私は……。
「なんか言われたりした?」
自分がおらんところで接近されてたことに、危機を感じてた。
「んー? 特に何も言われてないけど……。いつもありがとうございますって声をかけてくれたよ」
「……そっか」
てっきり、他の女の子をすすめられたんやないかと思ってた。でも、店長はそこには触れへんかったみたい。
「最近はマイちゃんの顔色もマシになって安心してる、って話もしたよ」
「……え?」
「ちょっと前までは、目の下のクマがひどかったし、寝不足なのがよくわかったけど、最近は眠れてるんやね」
ハライシさんのホッとした表情を前にして、私の中の店長への苛立ちは徐々に薄らいでく。
「……ごめんなさい。いつも、私の都合で帰らせたりしてて」
「ええんやよ、そこは。僕もその分、睡眠とれてるから」
ハハハッと笑ってくれてたけど、ハライシさんに対する罪悪感は残ったままやった。