都合のいいオトコ

「それに、前から言うてるやろ? “僕がお店に来れば、僕もマイちゃんと話せて楽しいし、マイちゃんもこの席でゆっくりできるし、お店も儲かるから、みんなにとっていい形なんや”って」

「……うん」

そういえば、ハライシさんがここに通い始めた頃、何度もそう言われてた。

遠いのに毎日通うから、無理せんといてって言うと、その考えを聞かされる。

「……ありがとう」

いつの間にか、ハライシさんがいて当たり前のように感じとった。

ハライシさんがずっとおることにストレスまで感じ、指名で縛られてるような気持ちにもなり、早く帰りたいと思うようになってたけど。

確かに、私には感謝が足りんわな。

“大事にしてきたお客さんらが、店長のいいコマになるのも嫌”

チエリはちゃんと大切にしてる。大事やと胸を張って言えるくらい、人としてちゃんと接してきたんやと思う。

「ハハハッ。改まって言われると恥ずかしいなぁ。……あー、でも、明日は早いから、今日は帰ってもいいかな?」

「うん。それはもちろん」

珍しく、ハライシさんのほうから切り上げてきた。

私も土日は遊園地が忙しいから、ハライシさんが帰ったら、自分も上がろうと思ってた。

会計を済ませたハライシさんの後ろについて行き、出入口のエレベーターまで送る。

ボーイと並んで頭を下げてたら、

『3名様来店しまーす』

隣におるボーイのインカムから、外に出てるボーイの声が聞こえてくる。
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