都合のいいオトコ

顔をあげてエレベーターの動きを確認すると、ハライシさんと入れ違いに乗り込んだのか、エレベーターはもうこの階に到着する頃やった。

下手に動かず、迎えた方がいい。そう判断し、私もボーイに並んで3名が来店されるのを待ってたんやけど──

「……っ」

入ってきたのは、知ってる顔。

「ご来店ありがとうございます。3名様ですね。ご指名のほうは……?」

すぐさま、隣におったボーイが声をかけにいったけど、私は身動きが取れずにおった。

「あー、俺はおらんけどー。お前らする?」

「いや、特に」

「俺もせーへん」

以前、ミツルと一緒に来とった阪南の人らやった。

彼らは私に気づくことなく、店内へと歩いていく。

「……帰っていい?」

「あー、ちょっと待ってな」

バタバタしてるボーイに声をかけて、上がれるように頼んだ後、私は席についた3名を、フロアの隅から覗いた。

「……」

ミツルは来うへんかったみたい。

これまで、あの人らが来ようとしてるときは一緒におって、連絡もくれてたけど。

ケータイを見ても、何も来てなかった。

通話履歴を見ると、いつも上のほうにあったミツルの名前は、だいぶ下へと流れてる。

「ほんまに終わったんやな」と、再度、思い知らされる瞬間やった。
< 83 / 142 >

この作品をシェア

pagetop